私は整形外科に勤務しています。毎日、腰痛や肩こりなど慢性症状に悩む患者さんがたくさん来院されます。
症状の原因はさまざまです。
肉体労働で体を酷使している。
デスクワークや長距離運転で同じ姿勢を続けている。
運動不足。
年齢的な衰え。
スマホを長時間見てる。
食べ物に問題がある。
睡眠時間が足りていない。
ストレスが多い。
慢性症状のほとんどが「日常生活習慣」に原因があります。
リハビリ中に日常生活習慣の改善をアドバイスしますが、「姿勢」の修正をうながすことが多いです。
その際とても多いのが、「胸を張りあごを引く」姿勢が良い姿勢だと思っていることです。
そして「私は巻き肩なんですよね」と、巻き肩が悪いことだととらえる人がほとんどです。
私たちは、胸を張りあごを引いた姿勢がいわゆる「良い姿勢」だと思っています。
では、海外の人はどうなんでしょうか?下の写真は海外の女優さんです。







いかがですか?みなさん巻き肩ですよね。
こちらのアジア系の女優さんのデコルテは、巻き肩のおかげで鎖骨のラインが映え、女性らしい美しさを感じます。

巻き肩をなおそうと胸を張った姿勢をとると、鎖骨のくぼみが浅くなり鎖骨のラインは目立たなくなるので、デコルテの魅力はなくなります。
出典「坂本龍馬は猫背だった。: 姿勢革命」 堀 和夫 著
上の図の左(A)は肩甲骨を寄せて胸を張った姿勢の骨格を上から見た図です。
肩甲骨を寄せているので背中は平らになり疲労しやすく、肩こりや腰痛を引き起こします。鎖骨外側が後ろに引かれ鎖骨のくぼみは消失し、女性らしいデコルテの魅力はなくなります。
右(B)は胸を張らない自然体の骨格です。
余計なエネルギーを使わないので疲労しにくく、体の緊張がなく呼吸も深くなります。上から見ると肩甲骨と鎖骨で作られるラインがひし形でデコルテも美しく見えます。
私が、いわゆる日本人のほとんどが良い姿勢だと思っている「胸を張りあごを引く姿勢」が誤りだと気づいたのは、アメリカのカイロプラクター資格をお持ちの堀和夫さんの治療家向けDVDを観たときです。
その中で紹介されていた日本人とイタリア人の姿勢の違いに驚きました。日本人は猫背が多いと思っていたのに、背中が丸いのは日本人ではなくイタリア人の方でした。
下の写真の左側2人はイタリア人女性です。右側2人は日本人男性です。
イタリア人女性の方が背中が丸いです。そしてあごを上げて背骨の上に頭の重みが乗っかっています。
日本人男性は背中の丸みがありません。あごを引いていますが頭は背骨の上に乗らず前方にあります。
出典「坂本龍馬は猫背だった。: 姿勢革命」 堀 和夫 著
確かにたくさん患者さんの体を見てきましたが、ほとんどの方が丸みを失った平らな背中をしています。セラピスト業界ではそれを「平背」と呼びます。
日本人のほとんどは平背で、首だけが前に出ている首猫背の人がほとんどです。
普段から胸を張ろうという意識でいると背中は平らになっていきます。
平背は、首痛や肩こり、腰痛などさまざまな体の不調を生み出します。
背骨は本来、ゆるやかなS字カーブを描くのが理想です。しかし日本人の胸椎は胸を張ることを意識することで、自然なカーブを失い直線に近づいていきます。
胸を張る姿勢というのは、筋肉を使って肩甲骨を寄せあごを引かなければなりません。その分余計なエネルギーを使います。
それは自然体ではありません。その姿勢を続けると疲れてしまうことは容易に想像できます。
「私は姿勢が良いです」と自信をもって言える人がいないのは当然で、そもそも目指している「良い姿勢」をキープし続けることは不可能です。
『背すじは伸ばすな!~姿勢・健康・美容の常識を覆す~』の著者で歯科医の山下 久明さんは、その著書のなかで、イースター島にあるモアイ像について
イースター島に立ち並ぶモアイ像。私はてっきり、この像は空を眺めているものだと思いこんでいました。ところが、姿勢の研究を始めてみると、モアイ像は水平線を見つめているということに気がついたのです。
山下 久明. 「背すじは伸ばすな!~姿勢・健康・美容の常識を覆す~」 (光文社新書) (pp.117-118). 光文社. Kindle 版から引用
と述べています。あごを上げると視点は高くなり周囲を見下ろすような感じになります。すると水平線の遠くまで見渡せて視野は広くなります。
反対にあごを引いた姿勢は視点が低くなり、上目使いになり視野は狭くなります。
最初山下さんは、モアイ像の頭の角度は空を見ているからアゴを上げた角度になってると思っていたそうですが、じつはそうではなくその状態が普通で、ただたんに前を向き水平線を見つめていただけだと気づいたそうです。とても面白い話です。

山下さんの考える理想は下の図の一番右の状態です。
出典「背すじは伸ばすな!~姿勢・健康・美容の常識を覆す~」 (光文社新書) Kindle版 山下 久明著
自分が目指していた良い姿勢が、実は体にとっては負担が大きくて、そもそも日本人だけが理想としている姿勢だった。そんな不自然な姿勢を目指していると肩こりや首痛、腰痛に悩まされるなんて、とても残念な話です。
私が初めて堀和夫さんのDVDで日本人とイタリア人の姿勢の比較写真を見た際の感想は、力んでいる日本人と違い、イタリア人の胸を張らない姿勢が、力が抜けて自然体でとてもリラックスしているように見えました。
出典「坂本龍馬は猫背だった。: 姿勢革命」 堀 和夫 著
そのリラックスした姿勢が、自然体でゆったりと人生を生きているように感じられたし、前のめりでない後ろ軸の姿勢が、人の目を気にしない「自分軸」の生き方を象徴しているようで、とてもうらやましく感じました。
「なんで今まで肩肘張って人生頑張ってきたんだろう。。。そのままの自分を受け入れ、ゆっくりと生きていこう」と思いました。
あなたは力みのない自然体のイタリア人の姿勢を見てどう感じましたか?
もしこの記事をお読みのあなたが、肩こりや首の痛み、あるいは腰痛に悩まされているのであれば、まずは胸を張りあごを引く姿勢は不自然なんだよ、ということを認識して欲しいです。
そして普段から、頭が背骨の上に乗っているかを意識していただきたいです。
「いやいや、胸を張ってあごを引き背筋を伸ばす姿勢が正しいんだよ」と反論される方もおられるかも知れません。だけど、もし体の不調に悩まされているのなら、試してみる価値はあります。
自分に合わなければ元に戻すだけですしね。
下記の順番で意識してみてください。
1,胸は張らない
2.背骨を立てる
3,背骨の上にあごを上げて頭をのせる。
4,後ろ重心(かかと重心)になった感覚を確認する。頭の重みが背骨の上に乗り、体の重心が背骨を通る感覚です。
背骨を重心が通ると骨で頭とからだの重さを支えることになり、余分な力が抜け体がラクになります。
イタリア人は肩の力が抜けあごを上げ、後ろ重心でリラックスした姿勢をしています。下の日本人と比較した写真を見ると、姿勢の違いは明らかです。
前軸の日本人の方がこむら返りなど脚がつりやすい姿勢なのもわかりますね。
出典「坂本龍馬は猫背だった。: 姿勢革命」 堀 和夫 著
後ろ重心になってリラックスした体になると、呼吸も深くなり血液の循環もよくなります。
肩こり首痛、腰痛などに悩んでいる方は、普段からイタリア人の姿勢を意識してみてください。まずは車を運転するときだけレッスンしてみようという軽い気持ちで、ヘッドレストに頭を預けあごを上げた姿勢で運転するクセをつけてみてください。
手のしびれや腕のしびれに悩まされている患者さんも、その姿勢を続けるにつれ、しびれが改善していく人が多いです。
改めて見てみると、クリスチャーノロナウドの胸椎の丸みもすごいですね。




心と体の健康は、リラックスした姿勢から育まれます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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